今月の提唱

『正法眼藏』「谿聲山色」の巻(9)

IMG 3410JPG 1おほよそ初心の情量は、佛道をはからふことあたはず、測量すといへども、あたらざるなり。初心に測量せずといへども、究竟に究盡なきにあらず、徹地の堂奧は、初心の淺識にあらず、ただまさに先聖の道をふまんことを行履すべし。このとき、尋師訪道するに、梯山航海あるなり。導師をたづね、知識をねがふには、從天降下なり、從地涌出なり。その接渠のところに、有情に道取せしめ、無情に道取せしむるに、身處にきき、心處にきく。若將耳聽は家常の茶飯なりといへども、眼處聞聲これ何必不必なり。見佛にも、自佛佗佛をもみ、大佛小佛をみる。大佛にもおどろきおそれざれ、小佛にもあやしみわづらはざれ。いはゆる大佛小佛を、しばらく山色谿聲と認ずるものなり。これに廣長舌あり、八萬偈あり、擧似逈脱なり、見徹獨抜なり。このゆゑに、俗いはく、彌高彌堅なり、先佛いはく、彌天彌綸なり。春松の操あり、秋菊の秀ある、卽是なるのみなり。
善知識、この田地にいたらんとき、人天の大師なるべし。いまだこの田地にいたらず、みだりに爲人の儀を存せん、人天の大賊なり。春松しらず、秋菊みざらん。なにの艸料かあらん、いかが根源を截斷せん。

今月の所感

今月の「谿聲山色」のご提唱は、先聖の道を踏むことが説かれた一段でした。
仏道の初心者は仏道について幾ら考えてもわからないものである。しかしわからないからといって、仏道の究極の境地を窮めることができないわけではない。。では、どうすれば初心者が仏道の究極の境地を窮めることができるか、それは先聖の歩んだ道を踏もう心掛けることであると、道元禅師は示されています。「身心学道」の巻にも、「たとひいまだ真実の菩提心おこらずといふとも、さきに菩提心をおこせりし仏祖の法をならふべし」とあります。仏祖を見習って、仏祖の起こした菩提心を学び、ずっとついて行くことが、先聖の道を歩むことなのです。


IMG 3407JPG 1続いて「尋師訪道するに、梯山航海あるなり」とあります。
「尋師訪道」は永嘉玄覚の『證道歌』にある、「遊江海涉山川、尋師訪道為參禪。自從認得曹谿路、了知生死不相關。(江海に遊び山川に涉り、師を尋ね道を訪うて參禪を為す。曹谿の路を認得してより、生死相關らざることを了知す。)」から引かれた語句だと思われます。
「梯山航海」とは、険しい山に橋をかけてゆき、大海も船でわたりして、道を求めて行くことです。
草鞋を履き、錫杖を携え、山を越え、海を渡って道を尋ねて行く。先聖の道を踏み歩くことはなかなかに大変なことで、そう簡単にできるものではありません。でも険しい先聖の道を歩み参師聞法して行くと、善知識が從天降下し、從地涌出してくると示されています。なお「從天降下」と「從地涌出」という語句は、『聯燈會要』の洪州雲居道膺の章の、「從天降下則貧寒、從地涌出則富貴」から引かれたものと思われます。

 

かくして師に相見すると、「有情に道取せしめ、無情に道取せしむるに、身處にきき、心處にきく」ことになります。無情を聞くといえば、洞山良价禅師の無情説法が思い出されます。
『聯燈會要』の筠州洞山良价禪師の章に、「也大奇、也大奇、無情說法不思議。若將耳聽終難會、眼處聞聲方得知(也大奇、也大奇、無情說法不思議。若し耳を將って聽けば終に會し難し、眼處に聲を聞けば方に知り得ん」とあります。訳してみますと、耳でもって無情が説法している声を聴こうとしてもきこえない。眼でもって聞くことにより、はじめて無情説法の声をきくとができるのだ、という意味です。


でも、「眼處聞聲」は我々凡人には到底できそうにもありません。道元禅師も「若將耳聽」は日常茶飯のことであるが、「眼處聞聲これ何必不必なり」と述べられています。即ち、誰でもできることではない眼でもって声を聞くこと、身心を挙して声を聞取することは、必ずしも必要ではないと言われているのです。
従って、道元禅師は仏を見る場合、自分の中に仏を見るように、他人の中に仏を見るように心がけ、大仏を見ても驚くことなく、小仏を見ても怪しむことなく、大仏・小仏を山色・谿聲と捉えてみてはどうだろうかと示されています。
そうすると、そこには仏の広長舌があり、八萬四千の偈があり、谿聲の挙示するところは、逈(はる)かに人間の思慮を超越したものであり、そのことを徹見すれば、ひたすら仏道を行ずる境地が示されることになるというのです。


我々凡人は「眼處聞聲」ができなくても、自分の内に、他人の内に仏を見て、その仏が大きくても驚かず恐れず、その仏が小さくても怪しんだり心を煩わせることなく、大いなる仏や小さな仏が、谿聲山色だと思えれば、無情説法をきくことができるということでしょう。
無情説法を「身處にきき、心處にきく」ことはできなくても、自分の内なる仏の声や他人の仏の声を、素直な気持ちで素直に聞く心境になれば、無情説法を聞くことができるのだと思います。菩提心を発し、名利の心を離れ、先聖の道を踏むという素直な心境になれば、聞こえてくるはずです。
「谿聲山色」の巻のご提唱も終盤を迎え、来月の定例参禅会で終了になると思います。一日でも早く、素直な心境になるよう、精進しなければと思う次第です。

今月のお知らせ

IMG 3401JPG 1今年の秋は夏の猛暑をひきついで、つい一週間前までは夏日のような様相を示していましたが、ここ2・3日でようやく秋らしい気候となりました。ところが大悲殿の受付の前には、もう成道会のご案内が出ており、今年も残り二ヵ月かと、あららためて時のたつことの速さを実感した次第です。
ウクライナに続いてガザ地区でも紛争が勃発しました。どうしたら世界平和が訪れるようになるのか、大変難しい問題ですが、とりあえず成道会で何を質問するか、一ヶ月ほどかけて考えてみたいと思います。

佐藤年番幹事からのお知らせ

・12月3日(日)に第41回成道会を開催します。11月の定例参禅会で参加申込を締切ります。
・今後の活動方針ついてメールで配布しましたが、玄関受付けにコピーを置いておきました。
・1~10月までの定例参禅会の参加者は184名、自由参禅(19回)の参加者は149名です。また新しく参加された方は13名でした。
・清水秀男さんから開智国際大学の公開講座のお知らせがありました。詳しくは開智国際大学のHPをご覧ください。

小畑代表からのお知らせ

・参禅会の参加者が少なくなっても、頑張って続けて行きたいと思っています。
・成道会も多くの方のご参加をお待ちしています。

明石方丈様からのお知らせ
・私のいない時に裏山で剪定した枝や伐採した竹などを燃やさないようにしてください。消火したつもりでも、残り火で思わぬ大火になる場合があります。

吉澤月番幹事からのお知らせ

・9月と10月の2か月間、ご協力有難うございました。

 

今月の司会者 佐藤修平
今月の参加者 16名
来月の司会者 佐藤修平