今月の提唱

『正法眼藏』「谿聲山色」の巻(8)

IMG 2036JPG 1また、西天の祖師、おほく外道・二乘・國王等のためにやぶられたるを。これ外道のすぐれたるにあらず、祖師に遠慮なきにあらず。初祖西来よりのち、嵩山に掛錫するに、粱武もしらず、魏主もしらず。ときに両箇のいぬあり、いはゆる、菩提流支三藏と光統律師となり。虛名邪利の、正人にふさがれんことをおそりて、あふぎて天日をくらまさんと擬するがごとくなりき。在世の達多よりも、なほはなはだし。あはれむべし、なんぢが深愛する名利は、祖師これを糞穢よりもいとふなり。かくのごとくの道理、佛法の力量の、究竟せざるにはあらず、良人をほゆるいぬありとしるべし。ほゆるいぬを、わづらふことなかれ、うらむることなかれ。引導の發願すべし、汝是畜生、發菩提心、と施設すべし。先哲いはく、これはこれ人面の畜生なり。また、歸依供養する魔類もあるべきなり。前佛いはく、不親近國王・王子・大臣・官長・婆羅門・居士。まことに佛道を學習せん人、わすれざるべき行儀なり。菩薩初學の功徳、すすむにしたがふてかさなるべし。
またむかしより、天帝きたりて行者の志氣を試験し、あるひは魔波旬きたりて行者の修道をさまたぐることあり。これみな、名利の志氣はなれざるとき、この事ありき。大慈大悲のふかく、廣度衆生の願の老大なるには、これらの障礙あらざるなり。修行の力量おのづから國土をうることあり、世運の達せるに相似せることあり。かくのごとくの時節、さらにかれを辨肯すべきなり、かれに瞌睡することなかれ。愚人これをよろこぶ、たとへば癡犬の、枯骨をねぶるがごとし。賢聖これをいとふ、たとへば世人の、糞穢をおづるににたり。

今月の所感

今月の「谿聲山色」の巻のご提唱は、仏道修行は如何に名利の思いを離れなければならないかを説かれたところです。
名利にとらわれたとして菩提流支三藏と光統律師とがあげられています。『景徳傳燈録』の菩提達磨の章によれば、菩提流支三藏と光統律師は達磨大師によって自分たちの教がふさがれることを恐れて、6度にわたって達磨大師をなきものにしようと企てました。その悪行は、釈尊をなきものにしようとした提婆達多よりもひどいものであると、道元禅師は述べられています。

 

このように正論を述べる人に対しては、必ず対抗する人が現れるものであることが、『法華経』の「勧持品」に見られると、明石方丈様は述べられました。
『法華経』の「勧持品」には二十行の偈がありますが、中国天台宗中興の祖と言われた妙楽大師・湛然さまは、その内容を踏まえて、『法華経』を弘めようとする者に対して、3種類の迫害者がいることを示されました。即ち「三種の強敵」が存在すると示されているのです。

 

その強敵とは、第1に俗衆増上慢、第2に道門増上慢、第3に僣聖増上慢と名付けれられるものです。
増上慢とは、➀思いあがった人。②慢心の過度なる者。③実際には徳を得ていないのに、得ていると妄心している者。④いまださとっていないのに、さとったと思って、おごり高ぶること等の意味がありますが、ここでは①の思いあがった人や②の慢心の過度なる者という意味でとっておきます。

 

第1の俗衆増上慢とは、「勧持品」の二十行の偈では、
   「 有諸無智人、惡口罵詈等、及加刀杖者、我等皆當忍(諸の無智の人の惡口・罵詈などし、、及び刀杖を加うる者有らんも、我等は、皆、當に忍ぶべし)」。
とあります。その意味は、
仏法に無智な人々の中には、『法華経』の行者を迫害する者もいます。彼らは『法華経』の行者に対して、悪口罵詈(悪口や罵ること)などを浴びせ、刀や杖で危害を加えることもあるということです。即ち、在世の人の中には、『法華経』の行者を迫害する強敵がいるということです。

 

第2の道門増上慢とは、「勧持品」の二十行の偈では、
   「惡世中比丘、邪智心諂曲、未得謂為得、我慢心充滿(惡世の中の比丘は、邪智にして心に諂曲(こびへつらい)あり、未だ得ざるに、為(こ)れを得たりと謂(おも)い、我慢の  心、充滿せん)」。
とあります。その意味は、
比丘(僧侶)の中には、『法華経』の行者を迫害する者もいます。邪智で心が曲がっており、真実の仏法を究めていないのに、自分の考えに執着し、自身が優れていると思い、正法を持った人を迫害することです。即ち、僧侶の中にも、『法華経』の行者を迫害する強敵がいるということです。

 

第3の僣聖増上慢とは、「勧持品」の二十行の偈では、少し長いですが、次のように頌されています。
 「或有阿練若、納衣在空閑、自謂行真道、輕賤人間者。貪著利養故、與白衣說法、為世所恭敬、如六通羅漢。(中略)常在大眾中、欲毀我等故、向國王大臣、婆羅門居士、及餘比丘眾、誹謗說我惡、謂是邪見人、說外道論議、我等敬佛故、悉忍是諸惡(或は阿練若に、納衣にて、空閑に在りて、自ら真の道を行ずと謂(おも)いて、人間を輕賤する者有らん。利養に貪著するが故に、白衣のために法を說きて、世のために恭敬せらるること、六通の羅漢の如くならん。(中略)常に大眾の中に在りて、我等を毀らんと欲するが故に、國王・大臣、婆羅門・居士、及び餘の比丘眾に向いて、誹謗し我が惡を說きて、『是れ邪見の人なり、外道の論議を說くなり』と謂わんも、我等は佛を敬うが故に、悉く是の諸の惡を忍ばん)」。
とあります。その意味は、
人々から聖者のように仰がれている高僧の中には、ふだんは世間から離れたところで納衣を付けて住んでいるが、自分の利益のみを貪り、悪心を抱いて、『法華経』の行者を陥れようとしている。その手口は、国王や大臣に向かって、『法華経』の行者を邪見の者であるなどと讒言(ウソの告げ口)し、権力者を動かして、弾圧を加えるように仕向けるのです。
即ち、世間から聖者と言われるような人の中にさえ、『法華経』の行者を迫害する強敵がいるということです。この僣聖増上慢の正体は、なかなか見破り難く、第1と第2は耐え忍ぶことができても、第3の僭聖増上慢は、最も悪質であるといわれています。

 

IMG 2026JPG 1「三種の強敵」は、何も『法華経』の行者を迫害する場合だけでなく、我々のまわりにも存在しています。このような増上慢の強敵にはどのように対処すればよいのでしょうか。そのことについて、明石方丈様は『法華経』の「常不軽菩薩品」にあると示されていると言われました。

 

常不軽菩薩とは、『法華経』に説かれる菩薩で、釈尊の前世の姿であったとされています。
釈尊の前世、最初の威音王仏が入滅し正法が滅した後の像法の世で、増上慢の比丘など四衆(比丘、比丘尼、優婆塞、優婆夷)が多い中に、正反対の一人の比丘がいました。この比丘は専ら経典を読誦することはなく、ただ礼拝を行ずるのみでした。また、この比丘は相手が誰であれ、
 『我深敬汝等,不敢輕慢。所以者何?汝等皆行菩薩道,當得作佛(我れ深く汝らを敬う。敢えて軽め慢らず。所以は何ん。汝等は皆菩薩の道を行じて、當に佛と作ることを得べければなり)』
と呼びかけて、礼拝したのです。
意訳しますと、「私は、あなたたちを深く敬います。けっして軽蔑しません。だって、あなたたちはみな、菩薩の道を実践して、将来きっと仏になれるのですから」となります。
〈仏になれる〉というのは、つまり〈仏性がある〉ということです。しかし一般の人びとは、その意味がわかりません。そこで、「なにをふざけたことを言いやがる」と怒って、この比丘に石を投たり、棒をふりあげたりして、迫害したのです。それでも、彼は走って逃げ、遠くの方から、あいかわらずその人たちを拝み、声高に、
 『我不敢輕於汝等,汝等皆當作佛(我敢えて汝等を輕しめず,汝等は皆當に佛と作るべし)』
と呼びかけたのです。
この比丘は迫害を受けながらも、繰り返しこのような言葉で呼びかけたので、増上慢の比丘・比丘尼・優婆塞・優婆夷達は、この比丘を常不軽と名付けたのです。
その後、常不軽菩薩は天空からの声で、『法華経』の教を聴き、広く人のために『法華経』説いたので、人々は常不軽菩薩が大神通力・説弁力・大善寂力を得ていると見て、信伏し彼の随行者となりました。

 

ところで我々は人から非難されたり、罵られたりすると、すぐカッと頭にきて、怒鳴ったり、あるいは物を投げつけたり、棒を振り上げたりしないでしょうか。とても常不軽菩薩のようにはなれません。しかし、一端その場を離れ、一息入れ、何故そのようなことを言われたのかを、冷静に考えることが、せめてできるようになりたいものです。そのためには、しっかりと坐禅辦道すべきだと思いますが、如何でしょうか。

今月のお知らせ

IMG 2029JPG 19月に入りお彼岸の中日になると、さすが連日の猛暑は影を潜め、過ごしやすい気候となりました。龍泉院の山門の前には彼岸花が咲いていました。9月になっても一向に涼しくならないので、彼岸花の開花は遅れるのではないかと思いましたが、文字通りお彼岸には咲いてくれました。
『明珠』80号の記念号が発行されました。37名の方々のご執筆をいただき、参禅会のこれからの50年をスタートとなる素晴らしい機関誌となりました。

佐藤年番幹事からのお知らせ

・今月と来月の月番幹事は吉澤さんにお願いしました。
・この後、本堂で施食会の後片付けを行います。お時間のある方はお手伝いをお願いいたします。
・最終提言を皆様にメールで配信しました。

杉浦『明珠』編集委員長からのお知らせ

・『明珠』80号には37名の方がご執筆くださいました。新しい50年を目指しての第一歩となる記念号となりました。

小畑代表からのお知らせ

・『明珠』80号が立派に作成されましたことに感謝申し上げます。
・施食会の後片付け、宜しくお願いいたします。
・先日椎名老師にお目にかかりました。大変お元気そうでした。その際、『明珠』81号から「従容録に学ぶ」を復活してくださるようお願いしたところ、ご快諾をいただきました。

明石方丈様からのお知らせ

・施食会の後片付け作業、油断すると怪我をしますからご注意ください。

 

今月の司会者 佐藤修平
今月の参加者 18名
来月の司会者 佐藤修平