今月の提唱
『正法眼藏』「阿羅漢」の巻(3)
釈迦牟尼佛言、是諸比丘比丘尼、自謂已得阿羅漢、是最後身、究竟涅槃便不復志求阿耨多羅三藐三菩提。當知此輩皆是増上慢人。所以者何、若有比丘實得阿羅漢、若不信此法、無有是処。
いはゆる阿耨多羅三藐三菩提を、能信するを、阿羅漢と證す。必信此法は、付属此法なり、単傳此法なり、修證此法なり。實得阿羅漢は、是最後身究竟涅槃にあらす、阿耨多羅三藐三菩提を志求するかゆゑに。志求阿耨多羅三藐三菩提は弄眼睛なり、壁面打坐なり面壁開眼なり。徧界なりといへとも、神出鬼没なり。亘時なりといへとも互換投機なり。かくのことくなるを志求阿耨多羅三藐三菩提といふ。このゆゑに志求阿羅漢なり。志求阿羅漢は、粥足飯足なり。
夾山圜悟禅師曰、古人得旨之後、向深山茆茨石室、折脚鐺子煮飯喫十年二十年、大忘人世、永謝塵寰。今時不敢望如此、但只韜名晦迹守本分、作箇骨律錐老納、以自契所證、隨己力量受用。消遣舊業、融通宿習、或有餘力、推以及人、結般若縁、練磨自己脚跟純熟。譬如荒草裏撥剔一箇半箇。同知有、共脱生死、轉益未来、以報佛祖深恩。抑不得已、霜露果熟、推将出世、應縁順適、開托人天、終不操心於有求。何況依倚貴勢、作流俗阿師、挙止欺凡罔聖、苟利圖名、作無間業。縦無相縁、只恁度世、亦無業果、眞出塵羅漢耶。
しかあれはすなはち而今の本色の納僧、これ眞出塵阿羅漢なり。阿羅漢の性相をしらんことは、かくのことくしるへし。西天の論師等のことはを妄計することなかれ。東地の圜悟禅師は正傳の嫡嗣ある佛祖なり。
今月の所感
今月のご提唱はお釈迦様のお言葉から始まります。
お釈迦さまは弟子たちに向って、「お前たちが、もし既に阿羅漢果を得て、これが修行の最終地点であり、究極の涅槃を得たと思って、もう最高の智慧を求める志が無いとしたら、それはまさに増上慢の人であると知るべきである。」と述べられました。これは『法華経』「方便品」に見られるお言葉ですですが、道元禅師はこのお言葉について、次のように拈提されています。
「修行してまことに阿羅漢果を得たとしても、それが修行の最終地点ではなく、究極の涅槃でもない。どこまでも最高の智慧を追求し、続けて行かなければならない。最高の智慧を追求とは、佛の眼睛を使い尽くし、面壁し、面壁して眼を開くことである」と。そして最後に、「阿羅漢を追求するとは、あくまでも粥足飯足(修行)を重ねることなのである」と締め括られています。
次に夾山圜悟禅師の言葉が述べられています。これは『圜悟佛果禅師語録』第14の「示華厳明首座」にみられる言葉です。圜悟禅師のお言葉は次のような趣旨が語られています。。
「古人は宗旨を得たら、深山や草むらや石窟などに行き、脚の折れた鍋で飯を炊き、十年二十年を人の世を全く忘れ、俗世間との縁を断ってしまったものだ。今の世ではそのようなことは望まないが、ただ、名を隠し、迹をくらまし、本分をまもり、仏道一筋に親しんで骨ばかりのゴツゴツの老僧となり、おのれの悟るところにかない、おのれが力に従って、前世からの業をなし崩しにし、前世からの習慣となった生き方を流してしまう。もし余力があれば、自己の真実の生き方をよく錬磨しておいて、たとえば荒草の中に、極めて数少ない素晴らしい学人を見つけ出し、たがいに真実の有ることを知り、共に生死の輪廻を脱し、ますます未来に利益をうえて、よってもって仏祖の深い恩に報いようと思う。
それとも、やむをえず、霜と露にあって木の実が熟するように、境涯が熟したならば、その果をもって世にいで、縁に応じ機に応じて、人を教化し、ついには求むるところのある心をいだかない。
ましていわんや、富貴権勢に寄りかかり、一般世人におもねる師となり、凡人を欺き、聖人をないがしろにするような行動をし、ただ名利を求めるような無間地獄に落ちる業をどうしてしようか。
たとい(人を悟らせて)法を嗣がせるような縁がなくとも、ただありのままの世渡りをして、前世からの業に煩わされることなない人は、六塵の世界を出離した真の阿羅漢というものではなかろうか」と。
以上が圜悟禅師の阿羅漢についての考え方ですが、これについて道元禅師は、圜悟禅師の示した阿羅漢観は、今日言うところの本当の僧のありようこそが、実は真の阿羅漢であることを示したものであると、結論付けられています。
『建撕記』には道元禅師が如浄禅師から「歸國ノ後、莫近付國王大臣、不居聚洛城隍、須住深山窮谷、不要雲集閑人。多虚不如少實。撰取眞箇道人、以爲伴。若有接得一箇半箇、嗣續佛祖之惠命、扶起古佛之家風者也。(歸國の後、國王大臣に近付すること莫れ、聚洛・城隍に居ぜず、須く深山・窮谷に住すべし、閑人を雲集することを要せず。虚多くは實少なしに如かず。眞箇の道人を撰取し、以て伴と爲す。若し一箇半箇を接得すること有らば、佛祖の惠命を嗣續し、古佛の家風を扶起する者なり)。」と言われました。如浄禅師のお言葉の趣旨は、まさに圜悟禅師のお言葉と全く同じです。道元禅師は如浄禅師のお言葉を、生涯忠実に守り通されました。
杉浦「在家得度式」担当からのお知らせ
・在家得度式の基本動作について、小畑二郎さんの演技を交えてと説明します。
五十嵐「洞山良价禅師千百五十回遠忌」担当からのお知らせ
・『明珠』78号の「記念法要」のお知らせでは、一炷の報恩坐禅が抜けています。
・「記念講演」と「対談」への参加申込者が60名で、定員にはまだ達していません。ご家族やご友人などにお声をかけてください。「記念講演」と「対談」については下記のURLをクリックしてください。
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・9月16日に本堂の飾り付けを行っていただいた結果、秋のお彼岸ではこれまでになく煌びやかに催すことができました。
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・『明珠』78号ができました。編集委員の方はご苦労様でした。
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・龍泉院参禅会50周年の記念行事の準備が滞りなく行われていますが、「自分たちが50周年の行事をするのだ」という意識をもってほしいものです。
・在家得度式の準備は全てすみました。
・「記念講演」の時に『石頭』と『洞山』(臨川書店刊行)を取り寄せて、必要な方にお配りします。
今月の司会者 松井 隆
今月の参加者 21名
来月の司会者 松井 隆