今月の提唱

『正法眼藏』「谿聲山色」の巻(6)

IMG 3365JPG 1またこの日本國は海外の遠方なり。人のこころ至愚なり。むかしよりいまだ聖󠄁人うまれず、生知うまれず、いはんや學道の實士まれなり。道心をしらざるともがらに、道心ををしふるときは、忠言の逆耳するによりて、自己をかへりみず、他人をうらむ。
おほよそ菩提心の行願には、菩提心の發未發、行道不行道を世人にしられんことをおもはざるべし、しられざらんといとなむべし、いはんやみづから口稱󠄁せんや。いまの人は、實をもとむることまれなりによりて身に行なく、こころにさとりなくとも、他人のほむることありて、行解相應せりといはん人をもとむるがごとし。迷中又迷、すなはちこれなり。この邪念すみやかに抛捨すべし。
學道のとき、見聞することかたきは、正法の心術なり。その心術は、佛佛相傳しきたれるものなり。これを佛光明とも、佛心とも相傳するなり。如來在世より今日にいたるまで、名利をもとむるを學道の用心とするににたるともがらおほかり。しかありしも、正師のをしえにあひて、ひるがへして正法をもとむれば、おのづから得道す。いま學道には、かくのごとくのやまふのあらんとしるべきなり。たとへば、初心始學にもあれ、久修練行にもあれ、傳道授業の機をうることもあり、機をえざることもあり、慕古してならふ機あるべし、訕謗してならはざる魔󠄁もあらん。兩頭ともに愛すべからず、うらむべからず。いかにしてかうれへなからん、うらみざら

今月の所感

今月の「谿聲山色」は、名利の心を戒めた巻です。

 

IMG 3363JPG 1初めに日本国には、昔から仏道の悟を得た人が出たこともないし、生まれながらに智慧のある人もなく、まして仏道修行をする真実の人も稀であると、日本人の仏道に対する取り組みが疎かであることを、道元禅師は指摘されています。

次に菩提心を行ずる時には、発心したことや実践していることを、知られようと思ってはならない。いな、知られまいと用心しなければならないと、厳しく戒めが述べられています。なお菩提心について『学道用心集』の「菩提心を発すべき事」の章を見ると、「ただ世間の生滅無常を観ずる心もまた菩提心と名づくと」とあります。即ち、世間のできごとは生滅無常であると観ずる心、これが菩提心なのです。
(道元禅師はそのようにお示しになられましたが、私としては、世間のできごとは生滅無常であると頭で理解しても、実際世間のできごとが生滅する現場に立ち会ったならば、そのような気持ちを果たして持つことができるのか、私には自信がありません。)

 

さて「谿聲山色」に戻り、菩提心を起こしたことや実践していることを、人には知られないようにとの道元禅師の戒めに続いて、「如来在世より今日にいたるまで、名利をもとむるを学道の用心とするににたるともがらおほかり」と続きます。名利を求めることを学道の目的とする人が、昔から少なくないことが述べられています。でも、そのように学道の目的が名利を得ることであった人でも、「正師のをしえにあひて、ひるがえして正法をもとむれば、おのづから得道す」とあり、正師を求めることの重要性が説かれています。『学道用心集』にも「参禅学道は正師を求むべき事」という章が確かにあります。

 

ここでまた『学道用心集』の「菩提心を発すべき事」の章を見ると、「誠にそれ無常を観ずる時、吾我の心生ぜず、名利の念起こらず」ということが述べられています。即ち、名利の念が起こるのは、世間は生滅無常であると観ずる心を持っていないことによるのです。
「菩提心を発すべき事」の章にはさらに、「未だ名利を抛(なげう)たずんば、未だ発心と称せず」と述べられています。この語句に関して、椎名老師はかつて平成19年6月の一夜接心の時に、次のようなご提唱をされていました。

 

IMG 3359JPG 1「これはすごい言葉ですね。どんな教をいただこうとも、要するに自分自身の名利を投げ捨てなければ、名利の念が少しでもあったならば、それは発心とは言えない。菩提心とは言えない。道心・道念を起こしたとは言えない。求める心とは言えない。名利が一番最大の毒です」と喝破されています。

 

さらに続けて椎名老師は我々に次のような嚴しいお言葉を述べられておられます。

 

「ですから道元禅師は為坐禅じゃダメだと言われるんですよ。何の為、かの為、目先の小さなものの為、これは皆名利に繋がっています。名利に繋がっていることをいくらやってもダメなんです。そういうことを止めなくちゃ本当のものは得られない。本物を得るには名利を全部捨てなければならない。❝かりそめにも自分は永年坐禅をやっている❞というのは、とんでもないことですよ。こういう自我を止めることです。5年やっている、10年やっている、こんなエゴを止めることです。もう今日かぎりだという坐禅をいつでもやるんです。こういう最期の時の気持ちに、常にならなければならないのです。名利が少しでも鼻にかかっていたり、頭にかかっていたりしたら、それはもう道とは言えない。少なくとも発心とは言えない。大変恐ろしいお言葉です。」

このように椎名老師は我々の坐禅に対する取り組みや気持ちに対して、厳しい警鐘を鳴らされていました。まさに肝に銘じなければならないところです。

今月のお知らせ

関東地方に梅雨明け宣言が出て、連日猛暑日が続いています。「梅雨明け十日」という諺がありますが、太平洋高気圧が台風の影響でますます強まっているので、十日以上青天日が続きそうです。このため毎日気象庁から「熱中症情報」が発令され、屋外での活動はなるべく控えてくださいとの指示が出ています。
しかし今、各県では高校野球の予選が行われており、グランドに立っている球児やスタンドで応援している生徒たちは、この猛暑の中、大丈夫なんでしょうか。何事もなければよいのですが。

佐藤年番幹事からのお知らせ

・7月と8月の月番幹事は石澤 健さんにお願いしました。
・施食会受付の玄関当番にご協力くださり有難うございます。
・8月16日の施食会は11名の方がお手伝いしてくださいます。当日は9時半に集合してください。

杉浦『明珠』編集委員長からのお知らせ

・原稿用紙による『明珠』のアンケートは今日が締め切りです。メールによる受付は今月末です。
・椎名老師に会ってきました。大変お元気でした。できれば施食会に参加したいとの意向をお持ちでした。

小畑代表からのお知らせ

・健康に不安があるので坐禅はできませんが、雲堂のお花の取り替えだけはやらせていただきます。

新しく参加された伊藤さんの感想

・できればまた参加したいと思います。

明石方丈様からのお知らせ

・椎名老師にお会いしました。車イスで歩くことができませんが、意気軒昂でした。
・施食会のお手伝い、大変有難く思っています。
・これから暑い日が続きますので、健康にはご留意ください。

 

今月の司会者 佐藤修平
今月の参加者 21名
来月の司会者 佐藤修平