今月の提唱

『正法眼藏』「春秋」の巻(3)
夾山圜悟禅師<嗣五祖法演禅師諱克勤和尚>云、盤走珠、珠走盤。偏中正、正中偏。羚羊掛角無蹤跡、獵狗遶林空踧蹐。
いま盤走珠の道、これ光前絶後、古今罕聞なり。古来はたたいはく、盤にはしる珠の住著なきかことし、羚羊いまは空に掛角せり、林いま獵狗をめくる。
慶元府、雪竇山、資聖寺、明覺禅師<嗣北塔祚和尚諱重顯和尚>云、垂手還同萬仞崖、正偏何必在安排。瑠璃古殿照明月、忍俊韓獹空上階。
雪竇は、雲門三世の法孫なり。参飽の皮袋といひぬへし。いま垂手還同萬仞崖といひて、奇絶の標格をあらはすといへとも、かならすしもしかあるへからす。

 

今月の所感
4月の定例参禅会では、例年午前8時半から椎名老師による坐禅の基本指導がありますが、今年は1月と2月がお休みとなり、3月からの参加者が少ないことから、坐禅指導は中止となりました。ただ、参禅会の後に行われる筍堀は、今年も行いました。今年は筍が豊富に顔を出しており、参加者が少ないこともあり、一人5~6本の収穫がありました。

 

今月の「春秋」の巻のご提唱から、洞山悟本大師の無寒暑の問答についてと、いわゆる洞山の五位について、祖師方の詠じた頌が取りあげられます。
最初は夾山圜悟禅師の頌です。夾山圜悟禅師(1063~1135)は臨済宗楊岐派。姓は駱氏、字は無著。宋代の人で北宋の徽宗からは佛果、南宋の高宗から圜悟の賜号を得たので、圜悟克勤・佛果克勤といい、圜悟禅師と敬称されています。彭州崇寧(四川省成都市の北西)の人で、幼年に出家し、諸処の高僧のもとで修行し、最後は五祖法演の弟子となり、その法を嗣ぐ。その後、諸寺を歴住し、昭覚寺、夾山寺、道林寺に住する間に、『雪竇頌古』を門人に提唱し、垂示・著語・評唱したものが『碧厳録』です。門下には大慧宗杲や虎丘紹隆をはじめ百余人の弟子がいます。


圜悟禅師の頌は、
盤走珠、珠走盤。偏中正、正中偏。羚羊掛角無蹤跡、獵狗遶林空踧蹐。(盤珠を走り、珠盤に走る。偏中正、正中偏。羚羊角を掛けて蹤跡無し、獵狗林を遶りて空しく踧蹐す。)です。
この頌について道元禅師は、「盤が珠を走る」という表現は、まさしく空前絶後であり、昔も今も聞いたことがない。昔から言われているのは、「盤を走る珠はとどまることがない」という表現である。さらに今は、「羚羊(トナカイ)は角を空に掛けている」と言い、あるいは、「林がむなしく猟犬をめぐる」と言うところであると、短くコメントしています。
次に雪竇重顯禅師の頌が取りあげられています。
雪竇重顯禅師(980~1052)は雲門宗。姓は李氏、字は隠之。諡號は明覺。遂州(四川省)の人。宋代の人で、幼くして出家し、受具の後、南遊して随州(湖北省)智門光祚に謁し、開悟して祖宗を嗣ぐ。明州(浙江省)雪竇山資聖寺に30年間住し、門風大いに振るい、70余人の門弟を養成し、雲門宗中興の祖と呼ばれています。
『景徳傳燈録』を中心に古則100則を選んで、これに自分の見解を詩で言い表したものを付け、『雪竇頌古』と称した。90年ほど後に、圜悟克勤がこれに垂示・評唱・著語を付したものが『碧厳録』です。
また雪竇重顯には『祖英集』という詩文集があります。駒澤大学大学院修士課程の学生さんが、修士論文に『祖英集』を選ばれ、椎名老師の指導を受けることになりました。老師は『祖英集』を読み込むうちに、漢語辞典『漢辞海』一冊が擦り切れたそうです。
雪竇禅師の頌は、
垂手還同萬仞崖、正偏何必在安排。瑠璃古殿照明月、忍俊韓獹空上階。(垂手還て萬仞崖に同じ、正偏何ぞ必ずしも安排に在らん。瑠璃古殿明月を照らす、忍俊たる韓獹も空しく階に上る。)
で、『碧巌録』第43則「洞山寒暑廻避」の頌でもあります。
この頌について道元禅師は、雪竇重顯は雲門の三代目の弟子で、よく仏道を学び参究した人物であると言われている。だが今、「垂手還て萬仞崖に同じ」という奇想天外な表現をしているが、必ずしもそうとはゆくまいとコメントしています。
今月は筍堀があるため、雪竇重顯の頌についての道元禅師のコメントに対するご提唱は、途中で打ち切りとなりました。

 

五十嵐年番幹事からのお知らせ
・一日接心を今年は3年ぶりに6月5日に行うことになりました。詳しくは案内状をご覧ください。なお、今後の新型コロナウィルスの感染状況によっては、変更があるかもしれません。変更の在る場合は5月の参禅会の時にお知らせします。

 

小畑代表幹事からのお知らせ
・参禅会50周年の在家得度式でお配りする色紙の用意をしています。
・一日接心がようやくできるようになりました。

 

椎名東堂老師からのお知らせ
・筍を掘った後の穴はキチンと埋めておいてください。
・5月の参禅会の時には50周年の趣旨を提出して、参加者を募集できるようにしてください。

 

今月の司会者 松井 隆
今月の参加者 17名
来月の司会者 松井 隆