今月の提唱
『正法眼藏』「春秋」の巻(1)
洞山悟本大師、因僧問、寒暑到来如何廻避。師云、何不向無寒暑処去。僧云、如何是無寒暑処。師云、寒時寒殺闍梨、熱時熱殺闍梨。
この因縁かつておほく商量しきたれり、而今おほく功夫すへし。佛祖かならす参来せり、参来せるは佛祖なり。西天東地古今の佛祖、おほくこの因縁を現成の面目とせり。この因縁の面目現成は佛祖公案なり。
しかあるに僧問の寒暑到来如何廻避、くはしくすへし。いはく正當寒到来時、正當熱到来時の参詳看なり。この寒暑渾寒渾暑ともに寒暑つからなり。寒暑つからなるゆゑに、到来時は寒暑つからの頂●(寧+頁)より到来するなり、寒暑つからの眼睛より現前するなり。この頂●(寧+頁)上、これ無寒暑のところなり。この眼睛裏、これ無寒暑のところなり。
高祖道の寒時寒殺闍梨、熱時熱殺闍梨は、正當到時の消息なり。いはゆる寒時たとひ道寒殺なりとも、熱時かならすしも熱殺道なるへからす。寒也徹蔕寒なり、熱也徹蔕熱なり。たとひ萬億の廻避を参得すとも、なほこれ以頭換尾なり。寒はこれ祖宗の活眼睛なり、暑はこれ先師の煖皮肉なり。
今月の所感
先月で「光明」の巻のご提唱が終わり、今月から「春秋」の巻が始まりました。「春秋」というタイトルは、寒い到来を秋とし、暑い到来を春とみて、孔子の「春秋」に掛けて題されたと言われています。
ご老師はご提唱の最初に、「春秋」の巻では中国曹洞禅の根幹とされている五位について、道元禅師は強く否定されていると述べられました。五位とは偏正五位の略で、洞山良价禅師が創唱とされていますが、道元禅師は五位の考え方を認めませんでした。このことについては来月の「春秋」の巻のご提唱で示されると思います。
「春秋」の巻は洞山良价禅師の無寒暑の公案から始まります。無寒暑の公案は『碧巌録』をはじめ、いろいろなところで取り上げられているのでよく知られていますが、『景徳傳燈録』に見えるのが最初だそうです。『景徳傳燈録』より約50年前に撰述された『祖堂集』には無寒暑の公案は見えないそうです。
無寒暑の公案は次のような問答から成り立っています。
ある僧が洞山に問う、「寒さ暑さが来た時には、どのように廻避したらよいのでしょうか」と。洞山は、「どうして寒さ暑さのない処に行かないのだ」と答えた。そこで僧が、「寒さ暑さのない処とは、どのような処でしょうか」と問うた。洞山は、「寒い時は寒さになりきること、暑い時は暑さになりきること」と答えた。
以上が無寒暑の公案における僧と洞山との問答ですが、次に道元禅師の無寒暑の公案についての拈提が始まります。
まず、僧が洞山に、「寒暑到来、如何が廻避せん」と問うたことについて、詳しく調べる必要があると述べています。この僧の問について道元禅師は、「正當寒到来時、正當熱到来時の参詳看なり」とコメントしています、まさに寒い時が来たり、暑い時が来たら、体当たりでぶつかって行きなさいと言うのです。寒暑に体当たりでぶつかるとは、寒暑につかりひたることであり、寒暑になりきっていれば、これこそが無寒暑のところであると言われています。
また、洞山良价禅師の言われた「寒時寒殺闍梨、熱時熱殺闍梨」について、道元禅師は「正當到時の消息なり」とコメントしています。正當到時の消息とは、寒や暑が自己の正体と一体となった情況という意味でしょう。要は寒の時は寒になりきることであり、暑の時は暑になりきることなのです。ただ寒は寒、暑は暑で、寒と暑は別ですから、「いはゆる寒時たとひ道寒殺なりとも、熱時かならすしも熱殺道なるへからす」と釘を刺されています。
続けて「寒也徹蔕寒なり、熱也徹蔕熱なり」と拈提されていますが、無寒暑とは寒くないとか暑くないところがあるのではなく、寒い時には寒くないところはどこにもなく、暑の時には暑くないところはどこにもないと覚悟することです。
従って「たとひ萬億の廻避を参得すとも、なほこれ以頭換尾なり」と述べられ、どれだけ寒暑から逃れる手立てを見つけようとしても、頭を以て尾に換えるような、全くあべこべのことをしていることになると示されています。
道元禅師は無寒暑の公案の締めの言葉として、「寒はこれ祖宗の活眼睛なり、暑はこれ先師の煖皮肉なり」と、実に歯切れよく決められています。
余談ですが、小生の参禅会20年の記念として、ご老師から「無寒暑」と揮毫された額を頂きました。有難いことです。
ご老師のご提唱の後、大掃除が行われ、本堂と大悲殿と坐禅堂の三班に分かれて、一時間ほど掃除作務を行いました。帰りには龍泉院様からお菓子とお餅をいただきました。
杉浦年番幹事からのお知らせ
・新しくできた志納金箱に、良寛さんの「焚くほどは風がもてくる落葉かな」の句を揮毫していただくことになりました。
小畑代表幹事からのお知らせ
・今年は参禅会発足50周年の歳でしたが、コロナ禍で何もできませんでした。ただ東堂老師がご病気から回復されたのは何よりです。
・来年の年番幹事は五十嵐さんが引き受けてくれました。
・来年50周年の記念行事として4つ予定しています。
1. 第5回在家得度式
2. 洞山良价禅師1150回遠忌
3. 『口宣』上梓
4. HPの改修
・来年の年番幹事制度については、年番幹事が五十嵐さん一人しかいないので、月番幹事制度を始めたいと思います。月番幹事が何をするのかを1月中に決めますので、皆様のご協力をお願いします。
山桐年番幹事からのお知らせ
・小林裕次さんから大掃除用にタオルのご寄付を頂きました。
椎名東堂老師からのお知らせ
・寒波襲来にもかかわらず参加人数が今年最多になったことは、大変うれしいことです。
・今年は脳梗塞で倒れた後、入院・リハビリとで夏の2ヶ月間地獄旅行をしてきました。
・吉岡大龍さんが両本山で一夜住職を務められ、晴れて何時でも住職になれる資格を得ました。
・明石方丈さんが立派に龍泉院の住職を引き継いでくださいました。『龍泉院だより』も引き継いで出してくださり、この土地によく慣れるように努めていることが書かれています。
・これまで260種の学術論文と書籍に掲載された解題などをA5版3000頁に纏めて出版する予定です。そのために市川洋介さんに校正などのお手伝いをお願いしています。
今月の司会者 杉浦上太郎
今月の参加者 25名
来月の司会者 五十嵐嗣郎