今月の提唱

『正法眼藏』「谿聲山色」の巻(1)

IMG 1947JPG 2阿耨菩提に伝道受業の仏祖おほし、粉骨の先蹤即不無なり。断臂の祖宗まなぶべし、掩泥の毫髪もたがふることなかれ。各各の脱殻をうるに、従来の知見解会に拘牽せられず、曠劫未明の事たちまちに現前す。恁麼時の而今は吾も不知なり、誰も不識なり、汝も不期なり、仏眼も覰不見なり。人慮あに測度せんや。
大宋国に東坡居士蘇軾とてありしは、字は子瞻といふ。筆海の真龍なりぬべし、仏海の龍象を学す。重淵にも游泳す、層雲にも昇降す。あるとき盧山にいたれりしちなみに、渓水の夜流する声をきくに悟道す。偈をつくりて常總禅師に呈するにいはく、
谿声便是広長舌、   《谿声便ち是れ広長舌、
山色無非清浄身、   山色清浄身に非ざること無し。
夜来八万四千偈、   夜来八万四千偈、
他日如何挙似人。   他日如何が人に挙似せん》
この偈を總禅師に呈するに、總禅師然之す。總は照覚常總禅師なり、總は黄龍慧南禅師の法嗣なり、南は慈明楚円禅師の法嗣なり。
居士あるとき仏印禅師了元和尚と相見するに、仏印さづくるに、法衣仏戒等をもてす。居士つねに法衣を搭して修道しき。居士仏印にたてまつるに無価の玉帯をもてす。ときの人いはく、凡俗所及の儀にあらずと。
しかあれば、聞谿悟道の因縁さらにこれ晩流の潤益なからんや。あはれむべしいくめぐりか現身説法の化儀にもれたるがごとくなる。なにとしてかさらに山色をみ、谿声をきく。一句なり

とやせん、半句なりとやせん、八万四千偈なりとやせん。うらむべし山水にかくれたる声色あること。またよろこぶべし、山水にあらはるる時節因縁あること。舌相も懈倦なし、身色あに存没あらんや。しかあれどもあらはるるときをやちかしとならふ、かくれたるときをやちかしとならはん。一枚なりとやせん、半枚なりとやせん、従来の春秋は山水を見聞せざりけり、夜来の時節は山水を見聞することわづかなり。いま学道の菩薩も山流水不流より学入の門を開すべし。

今月の所感

今月から『正法眼蔵』のご提唱は椎名老師にかわって明石方丈様がお務めするすることになりました。先月までの「徧參」の巻のご提唱は少し残っていますが、あらたに「谿聲山色」の巻のご提唱を始めることになりました。
「谿聲山色」は以前、椎名老師より平成8年4月から平成9年2月にかけてご提唱をいただいていますので、今回で2度目のご提唱となります。ただ現会員の内、平成8年の時点で会員になっておられる方は、果たしてどの位おられるのか。それほど多くはないと思われます。従って、ほとんどの方が「谿聲山色」のご提唱を初めてお聞きになられるものと思います。ベテランの方も椎名老師の「谿聲山色」についてのご提唱を、全て憶えておれる方は、ほとんどいないのではないでしょうか。
小生は蘇東坡の「谿聲山色」の句と、この後に出てくる有名な香嚴智閑の撃竹の話と靈雲志勤の桃花悟道の話は、よく憶えています。
「谿聲山色」の詩偈は、蘇軾が湖北省の黄州に左遷させられている時に、廬山に訪れて、夜に谷川を流れる水の音を聞いて悟ることがあり、それを詩にしたためたものです。この詩を東林常總禅師に呈じたところ、禅師は「よきかな」と褒め称えました。
東林常總(1025~1091)は、臨済宗黄龍派で、延平(福建省南平)の人です。黃龍慧南に参ずること20年、大法の決旨を受け、泐潭寺に住し、のち江州(江西省九江)東林寺に移りました。東林寺では盛んに大法を挙揚し、多くの雲衲を接得し、60余人の門弟を育成しました。皇帝からは広慧禅師と照覚禅師の号を賜っています。蘇軾との交游は有名です。
蘇軾はまた仏印禅師(雲居了元)に師資しており、師から法衣と仏戒を授けられ、蘇軾はその法衣を常に身につけて修行したと示されています。
雲居了元(1032~1098)は、雲門宗で、饒州(江西省)浮梁の人です。寶積寺の日用を礼して出家し、具足戒を受けました。廬山に登って開先善暹に参じ、28歳の時に善暹の法を嗣ぎ、江州(江西省)承天寺に出世します。のち淮山の斗方、廬山の開先・帰宗、江西の大仰山等の緒刹に歴住し、四度び雲居に住しました。蘇軾と親交があり、また白蓮社の流れをくむ青松社の社主となり、浄土思想にも関心を寄せました。仏印禅師の号を賜りました。
道元禅師は蘇軾の「谿聲山色」の詩を紹介した後、蘇軾が谿聲を聞いて悟りを得たことについて、色々と拈提されています。
まず、あわれむべきことは、昔から今まで人々は、仏の現身そのままの説法であるである宇宙の真理を聞く機会を逸してきたらしい。ましてやどのように山色を見たり、谿聲を聞いているのであろうか。谿聲が仏の広長舌、山色は仏の清浄身であるなど、思いもよらないのであると、道元禅師は拈提されています。
道元禅師は次に、人々は山水に隠れた仏の声色があることを知らないために、それを体験することができないことがあり、逆に山水に教えられて、仏の声色を体験する機会に逢うこともあると拈提されています。
山水は法を説き続けて休む時が無く、山色の相はそのまま清浄身であり続けている。たけれども、山水があらわれている時は、自己と親しいと感じるものの、隠れている時には、遠くにあるものと感じるものである。
蘇軾もこれまでの年月に於いて、山水の声も姿も見聞きはしなかったが、廬山に来た夜に、始めてわずかではあるが山水を見聞きすることができたのであると、道元禅師は述べられています(蘇軾が廬山の夜、なぜ谿聲を聞いて悟りを開いたのかは、次回のお楽しみ)。
人々が山水に隠れた仏の声色を見聞きすることは、非常に稀有な事なのでしょう。道元禅師は最後に、「山は流れ、水は流れず」と、まず常識の見解を脱し、自由自在な学び方を始めるべきであると述べられています。
「山が流れる」と聞くと、昭和62年2月から一年間ご提唱いただいた「山水経」の巻の「青山常運歩」と「東山水上行」を思い出します。懐かしいな。

今月のお知らせ

椎名老師のご都合で、今月からご提唱は明石方丈様にバトンタッチされました。これまでご提唱は1時間ありましたが、これからは30分くらいとし、その後、幹事等からのお知らせがあり、午前11時半には参禅会はお開きとなります。


佐藤年番幹事からのお知らせ

・2月15日午後2時から涅槃会を開催し、15名の方が参加しました。小畑代表からはお供物の添菜がありまた。

・2月11日午後1時から第7回龍泉院参禅会50周年実行委員会がありました。参加者11名です。小畑代表がこれからの50年間のあり方を考えてほしいとの要請により、ワーキンググループを立ち上げました。
・6月4日の「一日接心」で、小畑代表より参禅会50年の歴史を語っていただきます。
・来月から小林さんが月番幹事となります。

山桐月番幹事からのお知らせ

・今月は多大な志納金をいただきました。
・2ヵ月間の月番幹事でしたが、大変お世話になりました。

小畑代表からのお知らせ

・これまでは『正法眼蔵』の講義はご提唱と呼んでいましたが、今月からは講話となりました。
・逢坂さんからお菓子をいただきましたので、お配りいたします。

明石方丈様からのお知らせ

・2月15日の涅槃会の後片付けをお手伝いくださり有難うございます。
・1月28日の初不動の時も、お手伝いくださり有難うございます。
・提唱は30~40分とし、11時半にはご帰宅できるようにいたします。

 

今月の司会者 佐藤修平
今月の参加者 17名
来月の司会者 佐藤修平